Ⅰ 気血津液
1 概念
「気(き)」「血(けつ)」「津液(しんえき)」とは、人体を構成する物質であり、生理活動を推進する源です。
現代医学で言えば、身体をつくるたんぱく質や、燃えてエネルギーのもとになる炭水化物などに似ています。ただし、「気・血・津液」は一般のエネルギー源とは異なり、それぞれに具体的な生理作用を行っています(1つ1つの詳しい内容は後述)。
例えば、貧血気味、疲れやすい、食欲がない、息切れがする、眼精疲労などを訴える虚弱体質の人の場合、症状に応じて気・血・津液のどれかが不足していると判断します。つまり、「気・血・津液の足りないことが虚弱」と考えるのです。そして、これが病的な状態にまでなったときに、中医学(東洋医学)では「虚証」と呼びます。
2 気血津液の生成
源
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臓腑
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気血津液(精)
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後天 |
自然界の清気 |
肺
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気 |
水穀精微 |
脾
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気・血・津液 |
先天 |
両親の精 |
腎
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気(腎気) ・精(腎精)→血 |
中医学では、「気・血・津液」(この他、血の仲間に「精」がある)を作る源を、大きく「先天の源」と「後天の源」の2つに分けています。先天の源とは、両親から受け継がれる精(先天の精)のことです。後天の源には、食べ物(水穀)から得られる「水穀の精微(栄養分)」と、大気中から得られる「自然界の清気(酸素のような存在)」があります。
これらの源は、「五臓六腑」によって吸収されて気血津液に生化(作り変えること)され、「経絡」を通って全身に運ばれます。ただし、津液については「三焦」(五臓六腑の1つ)が通路になります。
自然界の清気は「肺」で吸入されて気に変わり、水穀の精微は「脾」で吸収されて、気血津液に生化されます。先天の精は「腎」に蓄えられて、精(「腎精」という)や気(「腎気」という)に生化され、また精はさらに血にも生化されます。
一般に、発育不全や先天的な疾患は、この腎精や腎気の不足によるもの(総称して「腎虚」という)と考えられ、治療ではこれらを補うことになります。漢方薬では「八味地黄丸」「六味地黄丸」「左帰丸」「右帰丸」などを中心に使い分けます。鍼灸では腎兪・太谿・復溜・関元などのツボに補法という手技(操作)を行います。
3 気血津液の働き
人体の構成成分である気血津液は、通常では代表して「気血」といわれていて、大きく気に属すグループと血に属するグループとに大分されます。このうち気のグループには、気の分類として宗気(そうき)・衛気(えき)・営気(えいき)・元気(げんき)があり、血のグループには、血のほかに津液と精が属します。
気血のどちらのグループも、人体の生理活動のもとになる機能的側面と、人体組織の栄養補給のために供給される物質的側面とを備えています。つまり気血が運ばれていくと、臓器などの組織は栄養補給されると同時に、その臓器の働きも活発になるのです。
ただし気と血のグループには違いがあり、気のグループのほうが、機能的側面が強いのに比べて、血のグループは機能的側面より物質的側面が強くなっています。したがって、一般的に同じ虚弱でも、栄養状態が悪くやせ細ったり潤い不足が目立つ場合には、血のグループのほうがよけいに消耗していると考えて、血の不足した病証タイプ(「血虚証(けっきょしょう)」という)や津液が不足した病証タイプ(「津液虧損証(しんえききそんしょう)」という)を想定した治療を行います。痩せてはいないが、代謝力が低下したり気力がなく体を動かすのがつらかったりする場合は、気のグループのほうがよけいに消耗していると考えて、気が不足した病証タイプ(「気虚証(ききょしょう)」という)を想定した治療を行います。もちろん両方の症状を持ち合わせることもあって、その場合は気も血も両方とも消耗している病証タイプ(「気血両虚証(きけつりょうきょしょう)」という)を想定した治療を行います。
そしてさらに、気のグループには「温煦(おんく)」という温める作用があるのに対して、血のグループはどれも液体の要素を持っているため、潤して熱を冷ます方向に働きます。気の中でとりわけ温煦の強い部分の気は、特別に「陽気(ようき)」といわれ、これが消耗すると慢性的な冷え性の病証(「陽虚証(ようきょしょう)」という)になりますし、とりわけ冷却能力の強い部分の血や津液は「陰血(いんけつ)」「陰液(いんえき)」といわれ、これが消耗すると微熱やほてりが出やすい病証(「陰虚証(いんきょしょう)」という)になります。
このように気のグループと血のグループは相対的な存在であるため「気は陽に属し、血は陰に属す」とされています。
しかしまた、気と血の両グループは相互に依存する反面も持っていて、気は血や津液・精を生み出したり、血行や水分の代謝を推進したり、血が血管から漏れ出るのを防いだりしていますし(津液の場合は多量の汗が出すぎるのを防いでいる)、逆に血や津液は気を載せて運ぶことがあります。
気のもつ推進する働きは「推動(すいどう)作用」、漏れ出るのを防ぐ働きは「固摂(こせつ)作用」、生み出す働きは「気化(きか)作用」と呼ばれます。このほかに、気には病邪の侵入を防ぐ働きがあり、これを「防御(ぼうぎょ)作用」といいます。