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臓腑 [東洋医学の基礎知識]
3 肺 (1)肺の生理作用 全身から見ると肺は人体の上部にある臓腑であるため、気や津液を体の下方へ降ろすことがその中心的な働きになっています。また肺は体表面と関係が深く、風邪などの外邪の侵入から体を守る働きも担っているため、感冒の初期で体表面に寒気を感じたり上気道が侵されたりするのは、みな肺に関連した症状とされます。 肺の中心的な生理作用には「主粛降=しゅくこうをつかさどる」「主宣発=せんぱつをつかさどる」があり、上述の下に降ろす働きと体表へ発散する働きを担っています。この2つの働きを基盤にして、具体的な作用が行われますが、その主なものには、「主呼吸」「通調水道」「主皮毛」などがあります。 「主呼吸」は肺が呼吸活動の中心的な臓腑であることを示していて、粛降によって息を吸い込み、宣発により息を吐き出したり皮膚から発散したりします。肺が犯されてこの作用が失調すると咳嗽・喘息・呼吸困難・発汗異常などが現れます。また、鼻や咽などの上気道に関連した器官も(開竅部⇒<貴方の病気のタイプ>内科系3鼻淵を参照)肺の系列とされているため、肺の作用の失調は、鼻疾患(鼻水・鼻づまりなど)や咽喉疾患(咽の腫れや痛みなど)の原因にもなります。 「通調水道」は、全身の水液代謝の中で、人体の上部(上焦という)にある水液を下方に降ろして行くという作用です。肺の異常がこの作用が影響すると、多量の痰や鼻水が出るほか、上半身のむくみ・尿が出にくいなどの症状が現れます。 (2)肺の病証タイプ 実証に属す病証タイプを引き起こす原因には、感冒やインフルエンザを起こす外邪の侵襲と、飲食物の不節制や慢性的な肺の失調による痰湿の停滞とがあります。 外邪によって引き起こされるものには「風寒束肺証」「風熱犯肺証」「燥邪犯肺証」があります。このうち風寒束肺証は冬の寒さやクーラーの冷気などが原因し、風熱犯肺証は熱が亢進している体質の人や春先に発症する感冒および流行性で起こり、燥邪犯肺証は空気が乾き始める秋にカゼを引くと現れます。 痰湿の停滞によって引き起こされるものには「痰濁阻肺証」と「痰火(熱邪)壅肺証」とがあります。このうち痰濁阻肺証は、風寒束肺証などが慢性化して肺の通調水道を失調したり、脾胃の虚弱によって運化水液作用が減退したりすることで起こります。痰火(熱邪)壅肺証は、風熱犯肺証などが慢性化して肺の通調水道を失調したり、飲酒や味の濃いものの偏食で湿熱が内生したりすることで起こります。 つぎに各病証の主な症状特性を紹介しますが、一般的なものは表にまとめてあります。 実証に属すタイプに共通してみられる症状特性は、咳嗽・呼吸困難・鼻水・咽の痛みなどが急速に激しく起こるというものです。これに加えて、外邪による風寒束肺証・風熱犯肺証・燥邪犯肺証では、感冒の初期症状である悪寒・発熱などを伴います。痰濁阻肺証や痰火壅肺証では、鼻水や痰の量が多いという特性がありますが、感冒の初期症状はみられません。 虚証に属す病証タイプには「肺気虚証」「肺陰虚証」があり、実証の病証の慢性化や疲労などが原因で起こります。この2つのタイプでみられる咳嗽や鼻水・咽の痛みなどの症状は、実証に属すもののように激しくはありませんが、慢性的で疲れると誘発されるという特性があります。さらに肺気虚証では疲れてくると活動中に症状が現れるのに対して、肺陰虚証では疲れた日の夕方から夜間に症状が強まり、鼻や咽は乾燥気味で痰や鼻水は少ないという特徴がみられます。 このほか、老人の慢性的な呼吸器疾患では、失調が腎まで及ぶため、肺気虚証は「肺腎気虚証」、肺陰虚証は「肺腎陰虚証」に発展していることが一般で、症状的には腎気虚や腎陰虚による症状が加わります。 肺の各病証タイプの症状特性
虚実による特性 | 病証タイプ |
症状特性 |
一般症状 |
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虚証 | 慢性的、疲労で誘発 | 肺気虚 | 疲れてくると活動中に症状が誘発 | 気血津液の気虚証・陰虚証の項を参照 | |
肺陰虚 | 疲れた日の夜に悪化、痰や鼻水は少量 | ||||
実証 | 激しい咳嗽・呼吸困難・鼻水・咽痛が急発 | 痰濁阻肺 | 痰や鼻水は多量 | 色は透明 | 気血津液の痰湿証の項を参照 |
熱邪壅肺 | 色は黄色 | ||||
風寒束肺 | 感冒の初期症状を伴う | 寒気が強く、痰や鼻水は透明 | |||
風熱犯肺 | 咽痛が強く、痰や鼻水は黄色 | ||||
燥邪犯肺 | 乾燥が強く、痰や鼻水は少ない |
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