学習コーナー
癌(悪性腫瘍) [貴方の病気のタイプ]
1-5 総論⑤
癌患者によく見られる症状
癌に見られる症状には、それぞれの癌が発生している部位に特徴的なもの(たとえば肺癌の呼吸困難、肝癌や胆癌の黄疸など)がある反面、どの癌にも比較的共通して現れて、患者の苦痛や体力消耗の大きな要因となるものもあります。主なものは、発熱・疼痛・出血・消痩や貧血などです。そのため、癌治療においては、各種の癌に対応した治療と、共通する症状に応じた治療とを、臨機応変に組み合わせるか使い分ける必要があります。
一般的な組み合わせとしては、苦痛や体力消耗の要因となる症状が強く出ている場合は、それが主体となり、比較的安定しているときは、各癌への個別対応が主体になります。
その苦痛や体力消耗の要因となる症状は、次表で紹介しますが、個々の患者ごとにそれが起こる原因に違いがありますので、注意してください。
症状 |
中医学的な原因とタイプ分類 |
発熱 | 病邪が鬱積して起こる実熱や、その熱による陰液の損傷を原因としています。実熱は、病邪の違いによって瘀血による発熱・湿熱による発熱などの分類があるほか、熱の所在によって営分の熱・心包の熱などの分類もあります。陰液の損傷が進んだものは、陰虚による発熱となります。尚、現代医学では、癌で壊死した細胞による自家中毒や、二次感染などを原因と考えています。 |
出血 | 熱毒性の強い癌・局部の循環障害・体力低下による統血機能の低下や虚熱などが原因して起こります。出血の部位・量・色と全身症状から、その原因を想定して、血熱・瘀血・脾の統血不足・腎陰虚などのタイプに分類します。現代医学では、癌の壊死に伴う潰瘍の破裂や、癌細胞の血管侵蝕などを原因としています。 |
疼痛 | 中期以降になって癌細胞が増大し、これが気血の運行の阻滞や正気の不足をまねいて、温煦や推動などの機能が低下することで起こります。痛み感覚の特徴などにより、気滞・瘀血・脾陽虚などのタイプに分類できます。現代医学では、癌の増大による近隣臓器の圧迫や、末梢神経への侵蝕を原因と考えています。 |
消痩や貧血 | 病気の長期化や胃腸への影響などで、陰血または気血が不足して肌肉を栄養できなくなると、消痩や貧血が現れるとしています(出血に伴う貧血は上記を参照)。主なタイプには、気血の不足に関わる脾虚・気血両虚、陰血の不足に関わる腎陰虚・肝腎不足などがあります。現代医学では、癌による消化吸収の障害・癌細胞増殖による栄養奪取・手術や抗がん剤による体の消耗などを消痩の原因とし、癌や抗癌剤による造血機能の障害、および慢性的出血を貧血の原因としています。 |
つぎに、こうした症状に対して行う鍼灸と漢方薬の治療について具体的なものをいくつか挙げると、疼痛に対する鍼灸治療では、痛む部位に対応して鍼を打ち、表のタイプ分類に合わせて、例えば脾陽虚タイプのように冷えがあるなら灸を加えて、疼痛の緩和を図ります。発熱に対応する漢方薬治療では、「黄連阿膠湯」「知柏地黄丸」「滋陰降火湯」などを使い分け、出血には「帰脾湯」「芎帰膠艾湯」「田七人参」、貧血や消痩には「十全大補湯」「六味地黄丸」などを使い分けます。
鍼灸と漢方薬のどちらを使うかについては、癌の進行にともなう体力の低下も考慮する要点の1つになります。一般的には漢方薬治療の方が、治療院に足を運ばなくても自宅で服薬治療できるため、体力的な負担が少なく続けられます。ただ、疼痛のコントロールについては、鍼灸は即効性があり効果的なことが多いので、体力が低下して通院できない場合は、当院のように往診治療を承っている治療院を利用して、自宅で鍼灸治療を受けるのも有効です。もちろん、両方を使った治療を希望する方もおいでです。
近年、大学病院でも鍼灸治療を行うところが増えてきましたが、現段階では混合診療が認められていないため、鍼灸と漢方薬を統合した治療を行っているところは少なく、また入院して鍼灸の治療を受けることは難しいため、外来に通院するしかありませんので、注意してください。
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